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「鍼灸マッサージ師である理由(背中を押す指と言葉)」

幼き頃に、「北斗の拳」という漫画に出会いました。主人公のケンシロウがツボを使い、悪者を倒していく漫画です。自身のツボを押すと力が強くなったり、敵のツボを押すと頭が爆発したりなど、不思議な効果があるツボに私はどんどん魅了されていったのです。

高校三年生になり、まわりがみな大学に進学していく中で私は、漫画のケンシロウのように、ツボを押して悪者を倒したい。という安易な考えで、熱海の鍼灸マッサージの専門学校へ進学し、はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師の免許取得しました。卒業後、温泉旅館がたくさんある街で名を憧れの「ケンシロウ」とし、夜に温泉マッサージのお手伝いを始めました。

ところが現実は酒に酔ったおじさんのマッサージ、イビキをかいて寝てしまい終っても起きてもらえなかったりなど方向性が違う現実に苦悩する毎日でした。

そんなある日、いつものようにお手伝い先の旅館に行きました。お客さんの部屋に呼ばれマッサージを開始すると、とくにお酒の入っている様子もない、物静かな御婦人でした。マッサージを終え、声をかけてみると「肩が辛くて辛くてどうしようもなかったけれど、今はウソみたいにスッキリしました。先生が肩にいた何かを退治してくれたのですね」と、とても元気になった様子で答えて下さいました。

私のくもった気持ちもパッと明るくなりました。

ここで気がつきました。悪者とは相手の中に潜んでるコリや病いなんだと。そして私の退治しなければいけない悪者が明確になった瞬間でした。

その後、東京で治療院を開業しました。そして、幼き頃に読んだ漫画の主人公ケンシロウのように、本格的に悪者退治をする今にいたります。

御婦人には「ありがとうございます」とおっしゃっていただきましたが、私はそれ以上に何度も「ありがとうございます」とお礼をいいました。

私の指が、御婦人の背中を押し、私の背中を御婦人の言葉が押しました。

 

松村和輝